過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群は、腹痛に伴って下痢と便秘を交互に繰り返す、お腹の張りや不快感などの症状が慢性的に続く疾患です。
排便によって症状が軽快することが多く、検査を行っても明らかな器質的異常が見つからないのが特徴です。20〜30代の比較的若い世代に多く見られ、命に関わる病気ではないものの、トイレに関する症状が日常生活に支障をきたし、生活の質を大きく下げてしまうことがあります。
過敏性腸症候群の原因
明確な原因は特定されていませんが、不安や緊張、ストレスといった精神的要因に加え、食生活の乱れや腸内環境の変化などが症状を悪化させる要因として知られています。
消化管は脳と密接に連携しながら機能していますが、これらの複数の要素が絡み合うことで、腸の働きを調整する脳内物質の分泌が乱れたり、脳と腸を繋ぐ自律神経のバランスが崩れたりすると考えられています。その結果、大腸の蠕動運動といった腸の運動機能に障害が生じ、排便異常、痛み・不快感といった知覚異常が起こるとされています。
過敏性腸症候群の症状
過敏性腸症候群は、症状の現れ方に応じて、便秘型・下痢型・混合型・分類不能型の4つに分類されます。
便秘型は、ストレスによって便秘が悪化し、排便があってもウサギの糞のような小さく硬い便が少量しか出ないのが特徴で、特に女性に多く見られます。下痢型は、緊張などの精神的要因で腹痛を伴う下痢が起こりやすく、通勤途中などで急にトイレに行きたくなるような症状が特徴で、男性に多い傾向があります。混合型では、下痢と便秘を交互に繰り返すことが多く、一定のパターンがないのが特徴です。分類不能型は、明確な下痢や便秘は見られないものの、慢性的なお腹の張りや不快感といった症状が続くタイプです。
これらの症状は、食事内容や摂取のタイミング、緊張、ストレスなどに左右されやすく、特に出勤や通学前の朝に強く現れる傾向があります。一方で、夜間の睡眠中や休日などリラックスしている時間には、症状が出にくいという特徴もあります。
過敏性腸症候群の診断、検査
過敏性腸症候群は、症状だけで即座に診断できる疾患ではありません。類似した症状を引き起こす他の器質的疾患や、全身性・内分泌性の病気の有無を調べるために、各種検査を行って慎重に診断を進めます。
鑑別が必要な疾患には、感染性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がんといった消化器疾患のほか、糖尿病などの全身性疾患や甲状腺機能異常などの内分泌性疾患が挙げられます。
こうした病気による異常が見つからなかった場合に、患者様の症状の経過や背景を総合的に判断し、国際的な消化器学会が定めたRomeⅢ基準に基づいて、最終的に過敏性腸症候群と診断されます。
1診察
まずは問診を通じて、現在の症状がいつから、どの程度の頻度や強さで続いているのかを詳しくお伺いします。
また、これまでの病歴や服用中のお薬についても確認します。 腹部の症状が強い場合には、触診や聴診などの診察も行います。
2検査
過敏性腸症候群は、他の疾患による症状ではないことを確認する必要があるため、各種検査を通じて他の病気の除外診断を行います。
血液検査では、体内の炎症の有無や程度、感染の兆候、貧血の有無、消化器の機能などを確認します。便検査では、細菌感染の有無などを確認することができます。さらに、大腸カメラ検査では、大腸の粘膜を直接観察し、ポリープやがん、びらん・潰瘍などの炎症性病変がないか、他の疾患に特有の異常が見られないかを詳しく調べます。異常が疑われる場合には、組織を採取して病理検査を行い、より正確な診断に繋げます。
当院では、内視鏡専門医の資格を持つ熟練の医師が、苦痛の少ない丁寧な大腸カメラ検査を実施しています。これらの検査で器質的疾患や全身性・内分泌性の病気が認められなかった場合には、国際的な消化器学会が定めるRomeⅢ基準に基づき、患者様の状態を総合的に評価して、過敏性腸症候群と診断します。
過敏性腸症候群の治療方法
過敏性腸症候群は、命に関わるような緊急性のある病気ではありませんが、症状によって日常生活の質が大きく損なわれることがあります。そのため、できるだけ発症前の生活に近づけることを目指し、患者様のライフスタイルに応じた治療を行うことが重要です。
この疾患はストレスや生活習慣との関係が深いため、治療は主に生活習慣の見直しと薬物療法の2つを軸に進めていきます。ただし、症状が一時的に改善しても再発することが多々あり、治療には時間がかかることもあります。そのため、焦らずに根気よく治療を継続することが大切です。
生活習慣の見直し
過敏性腸症候群の改善には、日々の生活習慣の見直しが非常に重要です。まず、偏った食事内容や暴飲暴食、就寝直前の食事、不規則な食事時間は避け、栄養バランスの取れた食事を規則的に摂ることが基本です。特に、食べ過ぎや過度な飲酒、辛いものなどの刺激物は、症状を悪化させやすいため控えるようにしましょう。
また、精神的ストレスや不安、緊張、睡眠不足、過労なども悪化因子となります。ストレスや不安を溜め込みすぎないよう、自分なりのリラックス法を見つけたり、入浴や十分な休養で疲労を回復させたりすることが大切です。就寝と起床の時間を一定に保つなど、規則正しい生活リズムを意識しましょう。 さらに、適度な運動を継続的に行うことで、自律神経のバランスが整いやすくなり、腸の働きも安定しやすくなります。無理のない範囲から始め、日常に取り入れやすい運動習慣を心がけてみてください。
薬物療法
生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合や、症状が強く日常生活に支障が出ている場合には、薬物療法を併用していきます。
お薬の種類は、下痢型・便秘型・混合型・分類不能型といったタイプごとに異なりますが、主に腸の運動を整えるお薬、便の硬さを調整するお薬、腸内環境を改善するお薬などが用いられます。
また、患者様の体質や症状に応じて、西洋薬に加えて漢方薬を処方することもあります。精神的ストレスや不安の影響が大きいと判断される場合には、短期間のみ抗うつ薬や抗不安薬などを併用することもあります。
過敏性腸症候群は、内視鏡などで明らかな異常が見つかる病気ではないため、「完治」という明確な判断がつきにくいという特徴があります。そのため、症状の変化に合わせてお薬の内容や量を調整しながら、継続的に治療を続けていくことが重要です。