胃潰瘍とは
胃潰瘍とは、胃の内側にある粘膜が深く損傷した状態で、腹痛などの不快な症状を引き起こす疾患です。自覚しやすい症状としては、みぞおちの痛み(心窩部痛)、腹部の張り、吐き気などが挙げられます。 発症のピークは40~60歳頃とされ、男女差はほとんどありません。
主な原因は、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)菌への感染や、イブプロフェンやロキソニンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用によるものです。放置すると悪化する可能性もあるため、早めに医師の診察を受けることが重要です。
胃潰瘍の症状
胃潰瘍を発症すると、以下のような症状が見られます。
- 胃の張りやげっぷ
- 胸やけ
- みぞおち(心窩部)の痛み
- 吐き気 など
特に、食後に痛みが強くなるのが特徴です。
多くの場合、胃酸分泌抑制剤によって症状は解消しますが、治療が不十分なままでは再発のリスクもあります。
なお、症状が全く現れないケースもありますが、重症化すると以下のような深刻な症状が現れることがあります。
- 継続する吐き気や嘔吐
- 食欲不振
- 吐血や黒っぽい嘔吐物
- 黒色便やタール状の便(消化管出血の可能性)
- 息苦しさ
- 意識が遠のく(失神)
- 不明な体重減少 など
これらの症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、検査を行って原因を特定することが大切です。
また、市販薬で一時的に症状が治まった場合でも、痛みが繰り返されるようであれば、医療機関の受診をお勧めします。
胃潰瘍の合併症
胃潰瘍を放置し続けると、以下のような重い合併症を引き起こす恐れがあります。
出血
胃潰瘍による出血は、少量の慢性的な出血から、入院や輸血を要するほどの大量出血まで様々です。
特に重度の出血が起こると、黒色便(タール便)や赤みを帯びた便として排出されることがあり、これが異常に気づくきっかけとなる場合もあります。
胃穿孔
胃潰瘍が進行すると、潰瘍が胃の粘膜を突き破り、胃壁に穴があく「胃穿孔」を引き起こすことがあります。
この状態になると、胃の内容物が腹腔内に漏れ出し、腹膜炎を発症する危険性が高まります。
通過障害
消化性潰瘍が原因で、胃や十二指腸の通り道が狭くなると、食べ物の通過が妨げられることがあります。
炎症による腫れや、潰瘍が治った後の瘢痕(組織の硬化)が原因となり、早期満腹感、嘔吐や体重減少を引き起こすことがあります。
胃がん
研究結果から、ピロリ菌に感染している人は、感染していない人と比べて胃がんを発症するリスクが高くなることが明らかになっています。
胃潰瘍の主な原因
通常、胃の内側は粘液やホルモンなどによって保護されていますが、胃潰瘍は、この防御機能と胃酸などの攻撃因子とのバランスが崩れることで発症するとされています。例えば、胃酸の分泌が過剰になったり、粘液が不足したりすることで、胃粘膜が傷つきやすくなり、潰瘍が生じる可能性があります。
胃潰瘍を引き起こす主な原因には、以下のようなものがあります。
ピロリ菌
ピロリ菌は、主に胃や十二指腸の粘膜に定着し、胃の内側に炎症を引き起こすことで、胃潰瘍などの原因となることがあります。
感染経路の詳細は完全には解明されていませんが、キスなどの密接な接触によって人から人へ感染するほか、汚染された水や食べ物を介して広がる可能性があるとされています。 特に、井戸水にピロリ菌が生息しているケースがあり、過去には井戸水を飲んだことが感染のきっかけになったという例もよく知られています。
特定の鎮痛剤の継続使用
アスピリンや、イブプロフェン・ロキソニンなどに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を長期間使用すると、胃や十二指腸の粘膜に炎症が発生し、潰瘍の原因になることがあります。
一方で、アセトアミノフェンはこれらとは異なり、基本的に胃潰瘍のリスクを高めることはないとされています。
他の薬剤による影響
ステロイド剤、低用量アスピリン、抗凝固薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの一部の薬剤も、胃潰瘍のリスクを高める要因となります。
これらのお薬を非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と併用することで、潰瘍の発症リスクはさらに大きくなります。
胃潰瘍のリスク因子
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用に加えて、以下のような要因も胃潰瘍の発症リスクを高めるとされています。
- アルコール:
アルコールは胃粘膜を直接刺激し、炎症を引き起こすことがあります。また、胃酸の分泌を増やす作用もあるため、潰瘍の発症や悪化に繋がります。 - 喫煙:
タバコに含まれるニコチンが胃の血流や粘膜の防御機能を低下させるほか、胃酸の分泌を促進することで、潰瘍のリスクが高まると考えられています。 - 過度なストレス
- 刺激の強い食べ物(辛いものなど)
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療法
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療は、その原因によって方法が異なります。
薬物療法
胃酸の分泌を抑えて、治癒を促すお薬
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸を分泌する細胞の働きを抑えることで、胃内の酸の量を減らし、潰瘍の治癒をサポートします。
現在、胃潰瘍の治療に最も広く使用されているお薬です。
ピロリ菌の除菌に用いる抗生物質
胃や十二指腸にピロリ菌が存在する場合には、除菌治療を行います。
通常は、2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌抑制剤(PPI)を組み合わせた3剤を1週間服用します。治療後には除菌判定検査が必要で、呼気検査や便検査などでチェックします。
胃酸を中和する制酸剤
制酸剤は、既に分泌された胃酸を中和することで、痛みをすばやく軽減する効果があります。
主成分によっては、便秘や下痢などの副作用が生じることがあります。
胃や小腸の内壁を保護するお薬
胃や十二指腸の粘膜を保護し、潰瘍部分の修復を助けるお薬を使用することもあります。
生活習慣の改善
ストレス管理
ストレスは、消化性潰瘍の症状を悪化させる一因となることがあります。そのため、自身のストレスの原因を見直し、可能な範囲で対策を講じることが大切です。
完全にストレスをなくすことは難しいかもしれませんが、運動を取り入れたり、家族や友人と過ごす時間を大切にしたり、日記をつけるなど、自分に合ったリラックス法を見つけて実践することが、症状の軽減や再発予防に繋がります。
禁煙
喫煙は胃の粘膜を保護する機能を妨げるほか、胃酸の分泌を促すため、胃潰瘍のリスクを高める要因となります。
節酒・禁酒
過度な飲酒は胃や腸の粘膜を傷つけ、炎症や出血を引き起こす原因となることがあります。
アルコールの摂取は控えめにしましょう。
鎮痛薬が原因と考えられる場合
鎮痛薬の使用が潰瘍の原因と考えられる場合には、お薬の種類を見直す必要があります。
鎮痛薬を継続して使用する際は、胃への影響が少ないお薬への変更について、医師に相談することが望ましいです。
なお、こうした生活習慣を完全に断つのは難しい場合もありますが、リスク要因を知り、日常生活の中で少しずつ意識して改善していくことが、潰瘍の予防と再発防止に繋がります。
初期治療後もフォローアップが必要な場合があります
消化性潰瘍は、適切な治療を行えば多くのケースで改善が期待できます。 しかし、症状が重かったり、治療後も痛みや不快感が続くような場合には、内視鏡検査を行って、他に隠れた病気がないかを確認する必要があります。
治療後も症状が残る場合や再発が疑われる場合は、医師と相談のうえ、再検査や定期的なフォローアップの必要性について確認しておきましょう。
治癒に至らなかった場合
通常の治療で改善が見られない消化性潰瘍は、「難治性潰瘍」と呼ばれます。
}潰瘍がなかなか治らない背景には、様々な要因が関係していることがあります。
よく見られる原因の例
- 医師の指示どおりにお薬を服用していない
- 喫煙習慣が継続している
- ピロリ菌の除菌が不完全である
- NSAIDsなどの潰瘍リスクを高めるお薬を定期的に服用している
稀ではあるが考えられる原因
- ゾリンジャー・エリソン症候群などによる胃酸の過剰分泌
- クローン病など、潰瘍に似た病変を引き起こす別の病気の影響
- 胃がんなど悪性疾患の存在
難治性潰瘍の治療では、まず治癒を妨げている要因を特定し、それを取り除くことが重要です。
状況によっては手術が必要となる場合もありますが、現在では治療効果の高いお薬が多く開発されており、外科的処置が必要となるケースは以前に比べて大幅に減少しています。
胃潰瘍の診断
胃潰瘍の診断では、まず医師が病歴を確認し、診察を通じて症状の経過や生活背景を詳しく把握します。
そのうえで、必要と判断された場合には、追加の検査が行われます。
問診では、より正確な状況を把握するために、次のような点について質問します。
- 症状が現れ始めた時期はいつですか?
- どのくらいの期間、症状が続いていますか?
- 空腹時に痛みが強くなりますか?
- 市販薬などを服用して症状が緩和されていますか?
- 何か特定の行動や食事で症状が改善または悪化しますか?
- 鎮痛薬やアスピリンなどを定期的に服用していますか?
- 吐き気や嘔吐の症状はありますか?
- 吐いたものに血や黒い物質が含まれていたことはありますか?
- 便に黒色や赤色の異常があったことはありますか?
これらの情報は、潰瘍以外の深刻な疾患を見逃さないためにも重要です。
必要に応じて、胃カメラ検査を実施します。胃の内部を直接観察できるこの検査では、潰瘍の有無だけでなく、その深さや出血の状況も確認できます。また、必要に応じて組織の一部を採取し、顕微鏡による精密な検査やピロリ菌の有無の確認を行うこともあります。
高齢の方、体重減少がある方、飲み込みにくさや出血の兆候が見られる方には、特に胃カメラ検査が推奨されることが多くなります。 さらに、胃カメラ検査によって自覚症状からは予測できなかった病気が発見されるケースもあるため、胃の不調が続く場合は早めに検査を受けましょう。